「タニモク(他人に目標をたててもらうワークショップ)」

HRコラム

「タニモク(他人に目標をたててもらうワークショップ)」

「タニモク」とは「はたらいて、笑おう。」をコーポレートスローガンとするパーソルキャリア株式会社(以下、パーソルキャリア)が無料公開しているワークショップです。

「タニモク」では、まず利害関係のない人(=他人)で4人1組のチームとなり、1人(当事者)が自分の現状を他の3人に説明します。次に他の3人は自分がその人だったら何をするかを考えて、目標を提案します。「タニモク」は、この30分ほどのセッションをチーム人数分行っていく、3時間程度のワークショップです。

この記事は「タニモク」プロジェクトリーダーであるパーソルキャリアの三石原士さんに、「タニモク」の運営ノウハウが完全無料公開されるまでの経緯とその驚くべき効果、そして具体的な活用方法についてインタビューした内容をまとめたものです。

1.「タニモク」が誕生して公開されるまでの経緯を教えてください。

パーソルキャリアでは、働き方の変化が求められる時代になる中で、「働き方」そのものの情報が世の中に足りていないという考えから「未来を変えるプロジェクト」というメディア兼イベントコミュニティを立ち上げ、運営をしています。おかげ様でコンテンツはとても反響があり、「こういう働き方、考え方っていいよね」とSNSで話題になることも多く非常に好評なのですが、メディアを立ちあげて2年ほど経った時ふと疑問に思ったことがあったんです。それは、いいねと言ってくれる人は確かにたくさんいるけれど、実際に読者の前向きな変化を私たちは後押しできているのだろうか、ということでした。
そこで読者の方にヒアリングをした結果、変化する人は知識を得るだけでなく、「こんな人がいるんだ」といった「人との出会い」をきっかけに変化している人が多いということが分かりました。しかし、一度のイベントでは、人との出会いを生むきっかけを得ることができる人数は限られてしまいます。そこでもっと気軽に、より多くの人が「人との出会い」を得られる方法を作れないかなと考えていました。
もう一つ、人が前向きに変化していく上で大切なものに、目標設定があります。ここでもひとつ課題意識があり、イベントで集まった人たちに「会社の中で立てた今の目標にワクワクしているか」聞くと、手を挙げる人はだいたい1割ほどしかいないんです。目標設定の機会を提供することができ、そしてうまく目標設定ができれば、前向きな変化という意味で良いターニングポイントになると考えていました。これら「人との出会い」と「目標設定」を掛け合わせると上手く、よりインパクトのあるきっかけ作りができるのではないかと考え、様々な試行錯誤の末に誕生したのが「タニモク」です。
パーソルキャリアは「はたらいて、笑おう。」というスローガンを持っており、前向きに働いたりチャレンジしたりする人を増やしたいという思いがありましたので、無料でそのノウハウを公開させていただくことにしました。

2.体験された方は実際にどのような効果がありましたか。

たくさんの事例がありますが、例えばマーケティング業務を担当されている方がいました。その方は元々ワークショップなどのファシリテーションをほとんど行ったことがなかったのですが、「タニモク」を行った際にまとめ役としてとても上手に進行役を務めていたため、他の方から「私が○○さんだったら、社内でワークショップを行い、そのまとめ役として存在感を出すように、こういった目標を立てます」という提案があったのです。本人がその目標に興味を持って実際に行動したところ非常に好評で、ファシリテーターとしての地位が社内において出来上がり、経営層やミドルマネージャーが出席する経営戦略会議においてもファシリテーションを担当することになっています。これは大企業の事例です。
また他には、50代のエンジニアの方がいました。その方は元々社内で若手エンジニアの相談をよく受けており、教え方が上手いために個別でたくさんの人が相談に来ていました。そこで「タニモク」において他の方から「私が○○さんだったら、社内で『○○塾』といった若手の教育を目的としたコミュニティを作ります」という提案があり、LINEでコミュニティを作ることや、勉強会・飲み会に関するアイディアなどが出たのです。これも本人がその目標に興味を持って実際に行動したところ、コミュニティがどんどん活発になり、参加しているエンジニア同士が意見交換する中で起案の数が増えるなど大きな効果が出ました。社内でも評判となり、今は会社として組織化を検討している状況だと聞いています。いつの間にか塾長のような立場になっていたと、嬉しそうにおっしゃっていました。
会社の中で目標を決めようとすると、「営業成績をもっとこうした方が」といった目標になりがちで、本人が納得してワクワクできるような目標設定をしにくい一面もあるのではないかと思います。その点「タニモク」では、利害関係のない人たちが異なる視点で目標を提示してくれ、その中で自分の感情が動いたものに対して目標設定するため、行動が伴いやすく効果が大きいのだと考えています。

3.企業や個人における具体的な活用方法を教えてください。

まず社内での活用ですが、率直に申し上げますと、現在は社内研修などでの活用事例はそれほど多くありません。「タニモク」がその効果を発揮するためには、利害関係のない人たちが4人集まって率直に話をすることが重要だからです。ただその中でも活用事例としてあるのは、「入社して間もない新卒の方向け」の実施です。入社時点では就職活動や面接の中で会社の事業を大枠で理解していますし、配属先の事業部で目標設定を行う前であれば固定観念を持たずに相手の目標設定のプレゼンを行うことができます。加えて同期の方々の「こういうことをやりたい」という想いを聞くことで、モチベーションを高め合い、会社の中でお互いに目指す方向性を共有することもできます。企業の人事の方とお話をすると、部署をまたいだ横の連携を強めたいという声を多く聞きますので、その意味でも入社して間もない新卒の方々で配属部署を混ぜながら「タニモク」を行うことは効果的だと考えています。
次に個人で「タニモク」を行う場合ですが、ここでも大事なことは「4人の利害関係がなく、異なる背景を持った人たちが集まる」ということになります。これに関しては、まず一つの方法として私たちが公式のイベントを定期的に開催していますので、既存のイベントに参加していただくという方法があります。ただし、こちらは場所や時間の制限がありますので、もう一つの方法としてSNS上で個人で告知する方法が挙げられます。例えば「#タニモク」とハッシュタグをつけて検索をしたり、投稿したり。自分から募集をすれば、これからユーザーが増えていく中で自分とはまったく違った背景を持つ方々と新しく知り合い、目標設定における視野を大きく広げることができます。とは言え、一番簡単な方法はおそらく身の回りの友人に声をかけることだと思います。例えば学校の同級生で別々の業界に就職して、お互いに利害関係がなく率直に言い合える関係の人たちであれば、友達であっても「タニモク」は十分効果を発揮すると言えます。

4.どのような方に「タニモク」を経験していただきたいですか。

ほとんどの方にとって何かしら良い影響があると考えていますが、特に日々の生活に新しい観点を加えて幸福感を高めていきたい方や、もやもやした状態をスッキリしたいという方、何かしてみたいという方にはぜひ「タニモク」を経験していただきたいと思っています。
先日、人の幸福感に関するレポートが出たのですが、それによると国内2万人に対するアンケート調査の結果、所得や学歴よりも「自己決定」が幸福感に強い影響を与えていることが明らかになりました。「タニモク」は、まさに目標設定とそれによる行動の自己決定です。つまり会社から一方的に目標を与えられるのではなく、多種多様な提案により、自分が思いもしなかった選択肢の中から自ら目標を決定して行動します。自己決定による幸福感につながるという意味で「タニモク」は幸福感を高めるワークショップであるとも言えるかもしれません。
もう一つ、「人は自分がアドバイスを受けるよりも、自分がアドバイスをする方がモチベーションを高められる」という話があります。実際に「タニモク」を行うと、多くの方から「人の目標を立てるのがこんなに面白いことだとは思わなかった」といった感想をいただきます。他人の目標を提案するだけなので正確にはアドバイスではありませんが、効果としては同様で、自分自身のモチベーションを向上させる仕組みが「タニモク」にはあるのです。
「いつまでに何をする」というかちっとした目標を決めずとも、本人に高いモチベーションがあれば、1年経ってみたらなんとなくそちらの方向に進んでいて好ましい結果につながっていたという方は非常に多いです。自分の幸福感が高まり、やる気も上がり、様々な切り口での目標に対して実現可能性を高められるワークショップですので、興味を持たれた方がいらっしゃいましたらまずはぜひ検索をしてイベントや募集がないか調べてみていただければと思っています。

※となりの研修室の記事は、現在 「Edu研」へと引き継がれております。