【研修インタビュー】一般社団法人日本社会人育成協会

インタビュー記事

日本社会人育成協会について

 東京都千代田区にある一般社団法人日本社会人育成協会(以下、日本社会人育成協会)は、経済産業省が提唱する「社会人基礎力」を養う研修を若手社員に特化して提供している会社です。
 代表である藤巻勇輝さんは、東京大学を卒業した後に経済産業省へ入省し、その後「社会人基礎力」の養成を行う経営塾の研修開発責任者を務め、2013年に「一身独立して一国独立す」を理念とする日本社会人育成協会の代表理事に就任しました。
 この記事は日本社会人育成協会の代表理事である藤巻勇輝さんに、日本社会人育成協会を立ち上げた経緯や、その業務の中で感じた研修担当者が押さえておくべき若手社員の考え方、そして教育事業に関する今後の取り組みに関してインタビューを行い、内容をまとめたものです。

1.一般社団法人を設立した経緯を教えてください

 私は、もともと政治家を目指していました。きっかけは大学在学中に将来の進路について考えた時、社会のため自分にできる最大限の貢献をしたいと考えたことです。政治家になるためにはいくつかのルートがありますが、私はその中で「法律を作る」ということに関してスペシャリストである官僚を経験して政治家になる道を選びました。かねてから教育に強い関心のあった私は、いくつかの省庁の面接を受ける中で文部科学省と経済産業省で最後まで悩んだのですが、最後は経済産業省の担当者の方がおっしゃった「文部科学省は博士を生み出す教育を所管しているのに対して、経済産業省でも社会人基礎力をはじめとする社会で活躍する人材の教育を所管している」という話に感銘を受け、これからの時代は社会人基礎力のような教育こそが重要と考えて経済産業省に入省しました。
 その後、国での業務において様々なしがらみを感じる中で、自分自身が心から良いと思える教育内容を世の中に対して提供していきたいという強い思いから、社会人基礎力の養成に関するオリジナルカリキュラムを提供する日本社会人育成協会を設立いたしました。当初は個人様向けの経営塾のような形でやらせていただいておりましたが、そこでの実績から法人様向けの研修を依頼され、研修事業も行うようになりました。現在では法人様向けに絞って、どのような切り口で教えることが若手社員の方々の心を強く動かすのかということに関して長い期間研究と実証を重ね、より満足度の高い研修カリキュラムをご提供させて頂いております。

研修担当者に役立つ若手社員への接し方のポイントを教えてください。

 日本社会人育成協会は、若手社員に特化して研修カリキュラムを提供させて頂いておりますが、研修の中で若手社員の方々と日々接する中で近年強く感じていることは、「会社のため」と「自分のため」が同じ方向にあることとして一致していない人の割合が年を追うごとに増えているのではないかということです。「会社のため」と「自分のため」が一致していない人は、仕事において主体性を引き出すことが非常に困難です。少し極端な話をすると、今の若手社員の方々は主体的に働く前に、企業に対して「自分から搾取しようとしているのではないか」といった不安や疑いを持っている人が少なからずいるのです
 このような変化の原因には、時代の変化というものが大きく関係していると思います。年功序列、終身雇用が常識の時代であれば、会社のために頑張ることで自分の収入や地位が上がり自分のためになるということもまた常識だったかもしれません。しかし今は、転職に対して否定的な感情を持っていない人が70%を超える時代です。
 以上のような状況において社員に主体性を望むのであれば、「目の前の業務に対して主体的に取り組むことがなぜ自分のためになるのか」という、ある意味では当たり前の話からまずしっかりと理解してもらうように話をしなければいけません。ただし、このような話を自分が勤めている企業から直接言われると、どうしても疑いの目で見られてしまいやすいです。その意味でも、私たちのような第三者機関は大きな存在意義を持っていると感じています。

3.研修を実施するにあたって重要と考えていることについて教えてください。

 経済産業省が社会人基礎力を提唱したのは2006年ですが、2018年に入って、社会人基礎力に関する新たな動きが起こっています。これは従来の社会人基礎力に加えて、自分で自分のキャリアを考えるという「キャリアオーナーシップ」の考え方を加えたものであり、経済産業省ではこれらをまとめて「新・社会人基礎力」と呼んでいます。
 社員がキャリアオーナーシップを持つことは、間違いなく会社のためにもなります。キャリアオーナーシップを持った社員は、自分が担当する業務に対してモチベーションを向上させ、主体性を発揮します。きちんと会社が目指している成長ベクトルとのすり合わせを行っていれば、離職率が増加する心配もありません。これは、日本社会人育成協会の研修を導入していただいた多くの会社様からも、実際の声としてご報告いただいております
 加えて、キャリアアップ支援を行うことは、優秀な人材を採用するための戦略においても非常に重要なものとなっています。「平成生まれの退職理由ランキング」において、1位の退職理由は「キャリア成長が望めない」というものです。現在、研修をはじめとして会社が社員のキャリアアップにどれだけの支援をしているのかということは、企業選びにおける大きなポイントの一つとなっています。そのため研修の実施にあたっては、「会社が求めているもの」に加えて「社員が求めているもの」も意識し、その上でキャリアアップ支援の取り組みをしっかりと広報していくことで、人材採用や定着率向上など様々な点で役立つと言えます。

4.教育に関する今後の取り組みで考えていることがあれば教えてください。

 私たちは、2025年に新しいコンセプトの高校を作るということを一つの目標として掲げています。専門性を深める場所という意味で現在の大学教育を否定するつもりは全くありませんが、自分自身の専門性を深い納得のもとで決められず、なんとなく大学に通っている人は少なくありません。もっと高校において、将来に向けたキャリアオーナーシップを持たせる教育を行う必要があります。
 コンセプトに関して少し具体的にお話ししますと、私たちは4年制の高校を作りたいと考えています。そこでは社会人基礎力をはじめとして、社会において求められる基礎的な能力や知識も通常の学科と併せてきちんと教えます。加えて、最後の1年間では3ヶ月程度のインターンを数社経験してもらいます。高校卒業時点で、大学で学ぶ専門性を決めきれていなければ、まずは社会に出て働いてみるのもいいと思います。そうして実際の社会経験をもとに、自分で稼いだお金を使ってまで大学で学びたい専門分野が見つかれば、その時大学進学は本人の人生において本当に意義深いものになるはずです。
 私たちが現在研修事業を行っている理由というのも、実は高校を作るというこの目標に由来しています。高校のカリキュラムへ社会人基礎力の教えを入れる際には、まず実際の社会においてその有用性が実証されたものであることが望ましいです。加えてその有用性を実際に感じている企業様が私たちの研修の中で一社でも増えれば、そこが私たちの高校におけるインターンの受け入れ先企業の有力な候補となってくれます。
 今後も引き続き研修事業においてより良いカリキュラム提供のために研究開発を続けていきながら、2025年の高校設立に向けて組織一丸となり全力で取り組んで参ります。